アランたちが宿をとっている町から数百メートル離れた森の中、二人の人間の姿があった。

「ジン、こんな辺境で本当にあってるの?」

 紫の長髪をいじりながら少女がまるでおもちゃに飽きた子供のように声を上げ前方の男性に向かって声を上げた。ジンと呼ばれた長身の男性は歩いていた足を止め溜息を一度吐くと後ろを向き。

「ミルファ、そのセリフ今まで何回言ったんだ?」

「二百とんで記念すべき七回目かな〜?」

「飽きたんならさっさと帰るぞ、付き合わされているこっちの身にもなれ。」

「えっへっへ〜、まっさかね〜、だって・・・・・・。」

 そこで一旦言葉を区切ると右手の人差し指を唇に当てると顔に満面の笑顔を浮かべ・・・・・・。

「あの子は私のものなんだよ。」


 求めし者のその先に

第4話「過去とその差」


「もう出発するんですか?」

 夕食の後、一休みをしているさなか急にこの事を告げられた。

「うん、明日の夕方までに港に着きたいからね。」

「港・・・・・・ってことは船旅ですか?」

「そうだよ、シャルロット。」

 アランの言葉を聞き、シャルロットが喜びの声を上げる。

「ミレーヌには悪いんだけど・・・・・・王都に行こうと思う。」

 その言葉を聞きミレーヌの顔がわずかばかり曇る。

「・・・・・・大丈夫?」

 しばらく沈黙が続いたが不意に顔に笑みを浮かべ。

「お気遣いは無用ですよ。」

 そう言い放つと座っていた椅子から立ち上がり支度をしてくると告げると部屋を出て行った。


「ミレーヌはまだダメなの?」

 荷物を整えている最中のアランに青龍が質問を投げかけた。

「多分、一生ダメなんじゃないかな・・・・・・このままなら。」

「まあ確かに『マリッジ』なら仕方がないですね。」

「『マリッジ』か・・・・・・。」

 そう呟くとアランは荷物整理していた手を止め天を仰ぐように顔を天井に向けると目を瞑った。

「ミレーヌは一生背負っていくのかな、『マリッジ』と言う重圧を・・・・・・。」

 その言葉を聞き椅子に座っていた青龍が立ち上がりアランの方に向かって歩き出しその横にスッと止まると・・・・・・。

「それは良くも悪くも彼女が決める事ですよ。」

 そう言うと姿を消した。

「重圧か・・・・・・人生そのものを捨ててまで背負う必要はあるのかな?」

 自分の質問に自分で疑問を投げかけてしまっている。アランは一度息を大きく吐くと思考を一旦停止させ再び荷物整理を始めた。


「ご主人様もあなたも気を使いすぎですよ。」

 部屋に戻ったミレーヌはアラン同様荷物を整理しながらシャルロットに向かって話しかけた。

「気を遣ってもらって悪い気はしませんけど、度の過ぎた気遣いは帰って相手を不快にしますよ。」

「・・・・・・うん。」

 それからしばらく二人の間に沈黙が続いた。ただ二人とも黙々と荷物整理と身支度を整えていくだけ。十数分後、二人は全ての作業を終えて宿の入り口にてアランと合流し町を後にした。


「それにしてもこんな夜に出発する事はなかったんじゃないですか?」

「んっ?」

 林の中に入りしばらくした後、ミレーヌがアランに向かって話し出した。

「別に明日の朝からでも港には間に合うんじゃないですか?」

「そうですよ、私もっと温泉入りたかったですよ!」

 ミレーヌの発言に同調するようにシャルロットも急に声を張り上げる。

「うん、まあそうなんだけど・・・・・・。」

 そうあいまいな返事をしながら視線を前後左右上下へとあちらこちらに彷徨わせた。流石にそんな異様な動きに二人から突っ込みが入った。

「どっ、どうかしましたか?」

「誰も付けてきてなんかいないと思いますけど?」

「うん、そうだと思うけど・・・・・・ただ・・・・・・。」

 そこで一旦区切ると右手で一回前髪をかきむしると。

「何かむちゃくちゃ嫌な予感がするんだよ、だからなるべく速くここから離れたいんだ。」

「あーーっっ!」

 アランの言葉を遮る勢いでシャルロットが声を上げた。

「どうしたの?」

「蛍ですよ、蛍。私初めて見ました!」

「蛍?」

「まだ五月ですよ?」

 アランとミレーヌが奇異の視線を混ぜつつシャルロットの指差す方へ顔を向けると確かにこちらに向かって迫る光が三つほどある。だが蛍にしては少々光が強すぎるような気がするが・・・・・・。

「本当に蛍なんで「違う!!」」

 アランが叫ぶと同時にミレーヌとシャルロットの手を引いて今までと90度方向を変え走り出した。

「えっ、とっ、とっ、とっ!」

「はわ、えっ、へっ?」

 わけがわからずアランの成すがままに手を引っ張られ道無き道を走る二人はバランスを崩さずに走るので精一杯だった。

「ちょっ、ご主人様?」

「伏せろ!」

 その後方、先ほど三人がいた付近の木に触れた瞬間巨大な音と共に凄まじい爆発が起こった。

 三人とも行動が間に合わず爆風に吹き飛ばされてしまう。叫び声を上げる暇もなく回りの木々に激突し低い呻き声を上げる。

「痛ッ・・・・・・。」

 痛みをこらえながら顔を上げたアランの視線の端から何か物体が迫り、アランを蹴り飛ばした。

「があっっ!」

 木の枝を二本、三本とへし折り後方へと吹飛ばされていく。それに気付きミレーヌとシャルロットも急いで体勢を立て直しアランの下へ駆け寄ろうとしたが。

「っ!」

 その二人の行く手を遮るように手裏剣のようなものが投げつけられた。その飛んできた方向に視線を向けると一人の男性が木の上に立っていた。

「誰ですか!」

「シャルロット、そんな事よりアランさんを――」

 ミレーヌが視線を離した一瞬の隙を付いて男は一気に間合いを詰めた。

『『なっ!?』』

 二人の顔に衝撃が走る。木の上から地上まで軽く三メートルはあったにも関わらずまるで瞬間移動でもしたかのようなスピードで一気に間合いを詰められたのだから当然と言えば当然か。

「くっ!」

 男の右拳から繰り出される強烈な一撃をミレーヌは咄嗟に出した鎖を出して受け止める。だがその威力に押され身体が後方に大きく後退してしまう。

「ミレーヌ!」

「だっ、大丈夫。それより・・・・・・。」

 こんな状態でもアランのことが気になってしまうのは愛情の表れか。だが・・・・・・。

「ふむ、反応はなかなか、だが経験が圧倒的に足りないか。実力差の生じる相手を前に気を反らしている様ではまだまだ・・・・・・。」

 ミレーヌに一撃を入れた男はもうすぐさま二人の行く手を遮るように仁王立ちをしていた。そして左手で右の手首を掴み軽くコキッと鳴らすと・・・・・・。

「ミルファの機嫌を損なうのも面倒だな、お嬢さん達の相手はこのジン=オーネストがお相手しよう。」


 地面を軽く五、六メートル吹飛ばされたアランは再び身体を起こし何とか顔を上げる。そして目的の人物に視線を向ける。

「やっぱお前か・・・・・・ミルファ。」

「アラン・・・・・・やっと、やっと逢えた。」

 睨み付けるアランに対して目をウルウルさせて涙まで流すミルファ。

「アラ〜ン!」

 両手を広げて抱きつこうと近づいてくるミルファに青龍を向けて敵対の意思を示す。

「ふざけるなミルファ、そこをどけ。どかないのなら力ずくでも押し通る。」

 そのセリフを聞いて先ほどまでの顔を一転させて少し不機嫌になる。

「ムッ、二年ぶりに逢ったのにまだわかんないの! 私には敵わないんだって。」

「うるさい! 二年前とは違う。ここで証明してやる!」

 そう叫ぶと『青龍』を構え迫る。だがミルファは軽く身体を反らしその一撃を難なくかわす。

「ちいっ!」

 アランは一撃を放った体勢から強引に後ろ回し蹴りを放つ。が、その一撃もミルファに一歩後ろに下がるだけでかわされてしまう。だがそこで終わらずすかさずに横薙ぎ、縦切り、突き、と様々な攻撃を繰り出すが全て先ほどと同様苦も無くしのがれてしまう。

「もう、しょうがないな〜。」

 不意に焦れたようなそんな声がアランの耳に届いた。そして・・・・・・。

「そんな子にはおしおきだよ♪」

 突如目の前にミルファの顔が現れ唇と唇が触れ合った。

 ニコッとミルファの目が笑いアランが突然の事に目を大きく見開いていると急にアランの腹部辺りが大きく光りだした。

 まずい! そう思ったが時は既に遅く何らかの対処の行動をとる間も無くその光は強烈な爆発となりアランを襲う。五メートルほど吹き飛ばされ腹部を抑えながらうずくまる。もはや絶叫を上げる事すらままならない。

 そんなアランの様子を見ても笑顔を絶やさずゆっくりとミルファはアランに近づいていく。途中先ほどの爆発で手からこぼれ落ちた『青龍』を拾い上げアランの下まで行くとそれを鞘に戻す。そして屈み込み両手を顎に添えると・・・・・・。

「ね〜、もう十分でしょ。」

諭すように、言い聞かせるようにゆっくりと言葉を告げる。

「いいかげん私のものになろうよ、ねっ、ほら。」

 そう言って右手を差し出すミルファ。だがアランはその手をかろうじて動いた左手で軽く叩いた。

「ぜっ・・・・・・たい・・・・・・・に、い・・・・・・やだ。」

 もはや言葉を発するのも辛い。だが拒否のだけをはっきりと伝える。そして重くなった身体を青龍で支え何とか持ち上げる。そして再び鞘からその刀身を抜き放ちミルファに向けて構える。そんな様子を不満げに見つづけていたミルファは再び距離をとると・・・・・・。

「無理だよアラン・・・・・・確かに青龍は『最高位武器』だけど忘れたの? 私のこれも『特異上位武器』なんだよ。」

 そう言い終わると右手の人差し指に光が集中しそれで宙に円を描くとその中に手を入れまるで中から物を取り出すような動作を行い先端が三つに分かれた赤と白で彩られた独特の杖を取り出す。

 それを見たアランは自分の心臓の音が跳ね上がったのを感じた。冷や汗が頬を伝い落ちる。逃げ出せるのなら逃げ出した。だが圧倒的なプレッシャーがそれを許さない。体力もない、逃げ道もない、ミレーヌもシャルロットも今ここにはいない。もはや八方ふさがりだ。

 ミルファは二度、三度その杖を軽く振ると・・・・・・。

「『最高位武器』と『特異上位武器』のランクは同位、なら扱う人によって強さは変わる。今のままのアランじゃ・・・・・・私には絶対に勝てない。」

 言い終わると同時に大きく一度杖を振るとそこから無数の光が拡散しアランの周りを囲みこむ。そして・・・・・・。

「オロチ十死天、『光天使』ミルファを相手にするには、まだまだ実力が足りないよ。」

 その全ての光がアランに向かって走り出した。


「くっ!」

「はあ、この人すごいですね〜。」

 ミレーヌとシャルロットは完全に目の前の男に押さえ込まれていた。特別視すべきはこの男、全力を出していないということだろう。攻撃は全てこちらから仕掛け相手が返すといった行為の繰り返し、完全に時間稼ぎだ。向こうから仕掛けてきたのは最初の威嚇交じりの一撃のみ。

 ついに痺れを切らしたようにミレーヌが叫ぶ。

「そちらからも攻めてきたらどうなんですか?」

「ふむ、そうしたいのはやまやまだが、あっさり終わってしまっても芸がないからな。」

「ムッ!」

「なんですって!」

 その発言を聞き二人の表情が険しくなる。目線で互いに合図するとジンを囲うように左右に別れ同時に攻撃を仕掛ける。ミレーヌは上半身、シャルロットは下半身を狙うが――

「コンビネーションも悪くないな。だが・・・・・・。」

 ジンは鎖を掌圧で弾き飛ばしシャルロットの槍を上から踏みつけた。二人の顔に衝撃が走る。

「熟成度がまだまだ。」

 そして一歩踏み込む事によりシャルロットとの間合いをゼロにしそこから腹部への高速の三連撃が炸裂した。二度、三度と地面を跳ねながら横たわるシャルロット。手がかろうじて痙攣している。どうやら死んではいないようだ。だがダメージは深刻なようだ。

「シャルロット!」

 その様を見てすぐさま駆けつけようとしたがジンの背後で凄まじい爆発が起こる。つい数分前にも小さいながらも爆発は起こっていたが今回は規模も音もその全てが先程とは規格外だった。

「ミルファの奴、『ルイズ・ワンズ』を使ったのか。まったく、やりすぎるなと言ったのに。しょうがない奴だな。」

 その言葉を聞く所によればアランのほうもただではすまない状況だろう。

 どうする、どうする、どうする。

 考えろ、考えろ、考えろ。

「あきらめろ、手などない。」

 まるでこちらの心を見透かしたかのようなそんな一言。

「圧倒的な実力差と公平な戦闘条件、この下では多少のその場しのぎの策など無意味だ。それぐらい悟れ。」

 それは圧倒的強者の言葉、実に理に適い納得もできる。だが・・・・・・。

 認めるものか!

 鎖を握る手に力が入る。その様子を見てジンも再び構えを取る。がその時――

「あっれー、まだ終わってないの?」

 そんな声が聞こえてきた。そしてジンの背後から何か背負った紫の長髪の少女、ミルファが現れる。

「そっちは終わったのか?」

「もっちろん♪♪」

 そして嬉しそうに背負ったものに頬擦りする。それは――

「アランさん!」

 体中から血を出しもはや生気すら感じられなくなったアラン=リングその人だった。

「あっ、気にしなくていいよ。後で私がちゃ〜んと看病するから、ね〜。」

 言い終わるやいなやまた頬擦りを始めた。

「ギッ、貴様!」

「んっ、ふっ、ふっ〜♪」

ミレーヌの視線などお構い無しにじゃれ付くミルファ。そんな姿を見てジンは溜息を一つ吐くと――

「それにしても『ルイズ・ワンズ』まで使うことはなかっただろ?」

 だがそんな言葉を無視してさらにじゃれ続けるミルファの姿を見てもはや何を言っても無駄だと悟ったのか再び溜息、そしてまたその視線をミレーヌに向ける。

「さて、こちらの目的も達成できたようなのでここらで幕引きといきたいのだが・・・・・・。」

 突如ミルファに向かい投げつけられた鎖を片手で掴むとその鎖を握り潰し、視線を鋭くしてミレーヌを睨みつける。

「そうもいかないようだな・・・・・・ならばこちらもそれなりの力を示そう。」

 そう言い終わるとジンは両の拳を眼前でくっつけるとゆっくりとそれを離していく。

 するとその離されできた空間に徐々に剣が形作られていく。

「我が双刀、『宵桜』の前に露と散れ。」

 左手の剣を逆手に持ち替え再び構える。

「さあ、結末を急ごうか。」

 一瞬のうちに今まであったジンとミレーヌ、二人の距離が無くなった。

 死んだ、間違いなく彼女はそう思った。だがミレーヌの後方から投げつけられた何かによってその死は回避された。

 その何かはミレーヌの顔の横数十センチを通りジンの左肩に突き刺さりジンを後退させる。

「何っ!」

 痛さよりも驚愕が彼を支配する。周りにはこの三人以外には誰も・・・・・・。

「シャルロット?!」

 そう、ジンに投げつけられたのは『雷光』、シャルロットの武器だ。だが今の彼女は先程までとは打って変わって体中からエネルギーを溢れ出しジンに向かって襲い掛かった。

 シャルロットの跳び蹴りがジンに向かい炸裂する。

 完全に居を付かれたジンは咄嗟に顔を狙われたその一撃を肩で防御する。

ズドンッといった低い音と共にジンを中心に直径一メートルの円を描くようその受けた威力により地面が抉られる。

「があっ!」

 先程までとはスピードも威力も比較にならない。なぜ急にこれ程までの力を?

 思考がまとまらないうちに目の前の少女、シャルロットは次の行動に移っていた。蹴りを放った体勢からジンの肩に刺さっていた『雷光』を切り上げる形で無理やり引き抜きジンを薙ぎ払う形で吹飛ばした。

 そして次はと言わんとばかりにミルファに向かい走り出した。だがミルファも片手をシャルロットに向けそこから光球を出すとそれを放った。それをシャルロットは正面からまともに受けてしまう。

「残念でした♪」

 ニッコリ満面の笑顔で余裕の言葉を言うミルファ、だが・・・・・・。

 その爆風の中、無傷のシャルロットがミルファに向かって迫る。

「えっ?!」

 完全に油断していたためジン同様次への行動が遅れてしまう。そのためシャルロットがミルファとアランを引き離すのを許してしまった。

「あっ。」

「ミレーヌ!」

 シャルロットが言葉を放つより早くミレーヌの鎖がアランの身体を掴み引き寄せる。

 その様を見てミルファの顔に怒りが走り――

「返して、私の邪魔しないで!!」

 力が暴走し、あたり一体が凄まじい閃光に包まれる。その直後、ミルファを中心に巨大な爆発が起こった。それは一瞬の間に辺りの木々を燃やし尽くし大地を抉り取った。


 次にミルファが周りに意識を向けた時、既に彼女を中心に半径およそ一キロメートルはまるで隕石でも落ちたかのようなクレーター状になっていた。

 しばらくボーっとしていたが急にハッとし声を荒げる。

「アラン、アラン、どこ?」

 だがどれだけ叫んでも周りのクレーターからは何の反応も無い。

 不意に地面の一ヶ所が膨れ上がり中から人影が出てきた。

「アラン?!」

 期待を込めた視線を向けるが・・・・・・。

「やれやれ、とんだ災難だな。」

 出てきたのは先程シャルロットに吹飛ばされたジン=オークスその人だった。目的の人物じゃなかったため再びムッとし。

「ジン、アラン、アランは? アランどこ?」

「さてな、死んだか・・・・・・それとも生きているか。まさに神のみぞ知るといった所か・・・・・・。」

 身体の土ぼこりを落としながら『宵桜』を拾い上げるとその二本の剣を中に投げる。するとそれはスッとその姿を消した。

「ふむ、愛刀を使う暇すらなかったな。んっ?」

ジンがミルファに近づいていくと一匹の鳥がジンの肩に止まるとその鳥が紙へとその姿を変える。

「式神か・・・・・・カルーアの奴め、何のようだ?」

 愚痴をこぼしながらその手紙を掴むと面倒くさそうに読む、そこには・・・・・・。

「ふむ、そうか・・・・・・ミルファ!」

「何、ジン? アランいたの! どこ、どこ?!」

「違う、オロチが帰ってこいとさ。」

「ハイ、嫌! じゃっ、アラ――」

 挨拶最後に駆け出そうとするミルファの後ろ襟を掴み引きずる形で引っ張っていく。

「嫌、いや、イヤ、い、や!! アラ〜ン!!」

「恐らく死んではいないだろうがここまで派手に暴れたんだ。探すにしても色々と邪魔が入るだろう。さっさと帰るぞ。」

「アラ〜ン。」

「いいかげん黙れ、縁があるならまた逢えるだろう。例えそれが早かろうが遅かろうが・・・・・・いずれな。」

 それでも文句を続けるミルファにジンは少し声に真面目さを混ぜあることを告げる。

「それに、少々こちらも事が進んでな。」

「んっ? 何かあったの?」

 ミルファが首を掲げる

「神様の居所がわかったらしい。」


「ハアッ、ハアッ、ハアッ、ハアッ・・・・・・。」

 ジンとミルファからおよそ二キロ半の林の一角、そこにミレーヌとシャルロット、そしてアランの姿があった。

「シャ、シャルロット、大丈夫ですか?」

「なっ、何とか・・・・・・。」

 木にもたれかかって息を整えていたシャルロットだったがバランスを崩し地面にドサッと倒れこんでしまう。

「シャルロット?!」

 同じく木にもたれていたミレーヌが重たい顔を上げる。

「ちょっ、ちょっと疲れちゃいました。」

「シャルロット・・・・・・何日分・・・・・・使ったんですか?」

「約、三日分ってとこ・・・・・・。」

 言い終わるやいなやシャルロットは寝息をたてて寝だした。

 シャルロットの能力、『取引』。自分の寿命を時間換算して力を得る能力。先程の戦闘でシャルロットは一週間分使ったといっていた。つまり3×24×60の計算により一分間当たり4320倍の力を得た事になる強力な能力。そのためミルファの強力な一撃を受けてもそれを上回る回復能力でその攻撃に耐えたのだ。だがこの力の一番恐ろしい所は自らにその自意識が無いところにある。つまり自分の寿命が何歳までかわからない以上、今この瞬間にももしかしたら死んでしまうかもしれないのだ。そして今もその力の反動で肉体に過度の疲労が蓄積したため睡眠状態に入ったのだ。

 先程の爆発の寸前、ミレーヌはアランのほかにシャルロットにも鎖を投げ同時に引き寄せシャルロットが二人を引っ張り『取引』で得た力により通常ではありえないスピードでその場を後にした。無論爆風によりダメージを受ける覚悟はあったが青龍がまた人型になり結界を作りそれを防いだ。

 ちなみに以前の洞窟崩壊の際に三人を守ったのと同じ力である。

 そんなシャルロットを横目で見ていると寝息とは別の声が聞こえてきた。

「シャル・・・・・・ロッ、ト・・・・・・ミレ・・・・・・ヌ・・・・・・。」

「ご、ご主人様。」

 慌ててアランに駆け寄るミレーヌ。そこには・・・・・・。

「ゴメ、ン・・・・・・ゴ・・・・・・メン。」

「ご主人様・・・・・・。」

「僕・・・・・・まだ・・・・・・よわ・・・・・・かった・・・・・・ゴメ・・・・・・ン。」

 涙を流し許しを乞う男の姿があった。




あとがき

ヤイバです。

ミルファとジン登場。

アランたち三人が弱いのではなくあの二人が強すぎたのであしからず。

ではこの辺で。


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